平成26 年度の炭素材料学会学術賞、研究奨励賞、論文賞の各賞は、規定に基づき各選考委員会の厳正な審査により選出され、会長による評議員会への報告、評議員会の承認を経て、次のように決定されました。受賞者各位に対し、去る12 月9 日福岡県大野城市まどかぴあにおいて開催の第41 回通常総会の席上にて表彰が行われました。会員の皆様にお知らせいたします。
学術賞
「蓄電デバイス用電極としての高性能ナノカーボン材料の開発に関する研究」
白石壮志 氏(群馬大学大学院理工学府 教授)
白石壮志氏は、炭素電極材料の新規開発・基礎物性評価・応用を中心に研究を進め、電気二重層キャパシタ(EDLC) 用新規ナノ細孔体電極の開発、およびカーボンナノ材料の電気化学的応用に関して先導的な研究を行ってきた。
同氏はEDLCの欠点であるエネルギー密度の改善のために高容量化・高電圧化が重要と考え、細孔構造・表面化学状態・電極三次元構造の3 点に注目した。まず、賦活触媒法や炭素- フッ素化合物の脱フッ素化法を用いて炭素ナノ細孔体電極にメソ細孔を発達させEDLCの高速充放電時の容量を改善することに成功した。次に、炭素電極の表面に異種元素(窒素・ホウ素)ドープを行い、容量を増加させるだけでなく、電極や電解液の電気分解を抑制できることを見いだし、炭素電極の表面化学状態の制御が高電圧化に不可欠であることを明らかにした。さらに、EDLCの高電圧化を阻む原因が電極内の炭素粒子の接触抵抗の増加にあることを突き止め、炭素粒子界面が存在しないシームレスな三次元構造を有する炭素ナノ細孔体電極を開発し、高電圧での充電に対して優れた耐久性を有するEDLCを実現した。また、同氏はカーボンナノチューブやナノファイバがEDLC電極材やLi イオン二次電池の負極材として優れた高速充放電特性を示すことを見いだし、炭素電極のナノサイズ化と電極特性との相関を解明した。同時に、カーボンナノ材料を基礎的な物性評価におけるモデル物質と捉え、無孔性のカーボンナノ粒子に着目し、その容量特性を詳細に分析した。その結果、容量は電解質イオンの種類やサイズに依存せずほぼ一定であることを見いだし、さらに炭素電極における電気二重層の誘電体的性質の主たる支配因子を明らかにした。
以上のように、白石壮志氏は蓄電デバイス用電極としての高性能ナノカーボン材料の開発において独創的な発想で研究を進め大きな成果を上げていることから、同氏の業績は炭素材料学会学術賞に値すると判断される。
学術賞
「機能性炭素材構造のヒエラルキ的解明および効用」
尹 聖昊 氏(九州大学 先導物質化学研究所 教授)
尹 聖昊氏は、炭素材料の原料となる石炭・石油およびピッチ・コークス類の製造、ピッチ系炭素繊維、カーボンナノファイバーなどの高機能性炭素材料とその前躯体について、炭素材料化学の幅広い分野にわたって独自の視点から研究を遂行している。
同氏は機能性炭素材の微細組織に着目し、多様な炭素構造の生成機構を検討するとともに、より適切な炭素構造の設計と炭素材料の応用拡大に努めてきた。特にメソフェーズピッチ系炭素繊維において炭素六方網面積層体の集合からなる微細組織構造単位に着目し、詳細な実験・観察結果を基に炭素材料のナノ/メゾ/マクロ構造形成をヒエラルキ的に解析し、多様な炭素構造の生成機構を明らかにした。すなわち、炭素材料のヒエラルキ的認識により、炭素繊維は分子(炭素六角網面)→クラスター(分子の集合;ナノ構造)→ミクロドメイン(メゾ構造)→ドメイン(ミクロドメインの集合体)→マクロ構造(繊維)の階層構造であることを解明した。さらに、このような炭素構造のヒエラルキ的認識を普遍化することで、炭素構造の三次元構造モデルを構築し、ガラス状炭素や活性炭素繊維の構造解析を行い大きな成果を上げている。また、同氏はカーボンナノファイバーの製造方法など炭素材料の調製や応用にも力を注いでおり、多様な成果を挙げている。例えばカーボンナノファイバーにメソ寸法の構造単位が存在することを確認し、この構造単位を適切にかい離することによって均一なナノグラフェンを調製することに成功している。このように微視的構造を主眼とした炭素材料の構造理解は画期的な物性改善を伴う新たな炭素材料の設計・制御、開発に大きく貢献することが期待される。
以上のように、尹 聖昊氏の機能性炭素材構造のヒエラルキ的解明および効用に関する研究はほかに類を見ないものであり、その独創性は高く評価することができることから、炭素材料学会学術賞に値するものと判断する。
研究奨励賞
「X線光電子分光分析によるグラフェンの欠陥構造解析」
山田泰弘 氏(千葉大学工学研究科 助教)
山田泰弘氏は、炭素材料の表面分析で最も利用される分析方法の一つであるX線光分子分光分析(XPS)測定を量子化学計算と組み合わせ、グラフェンの欠陥構造解析に関する研究を進めている。
同氏は、XPSスペクトルによるグラフェン構造欠陥に関する従来の研究が文献値との単なる比較にとどまっていると考え、欠陥構造の完全解明を目的として、グラフェンのベーサル面とエッジの両方に存在する100 種類以上の欠陥(含酸素・含窒素官能基、5 ~ 7員環、点欠陥等)についてのXPSスペクトルを量子化学的手法によりシミュレーション計算し、測定結果との詳細な比較を実施した。また計算結果を文献値と比較し、これまでに十分な説明がなされてこなかった官能基の存在についても明らかにした。非常に多くの欠陥構造を考慮した点で世界的に前例のない研究であり、また半値幅を考慮したグラフェンのXPSスペクトル解析に関する研究として独創性が認められる。これらの成果は今後の炭素材料研究に大きな影響を与えると考えられ、またグラフェンおよび関連物質の欠陥構造に関する知見の体系化へ十分な意欲が伺える研究である。さらに同氏は解析手法の確立にとどまらず、ハロゲン・ホウ素・硫黄・リン含有グラフェンのXPS解析にも取り組みを開始しており、これから一層の活躍が期待される。
以上の研究成果は、炭素材料学会年会を含む国内外の学会で発表されており、またCarbon誌をはじめとする学術誌に多数公表されている。また今後の研究の発展も期待できることから、同氏の業績は炭素材料学会研究奨励賞に値すると判断される。
炭素材料学会論文賞
村松寛之a)、*、林 卓哉b)、金 隆岩c)、森本信吾d)、鶴岡秀志d)、遠藤守信d)
a) 信州大学学術研究院工学系
b) 信州大学工学部電気電子工学科
c) 全南国立大学高分子繊維システム工学科
d) 信州大学エキゾチックナノカーボンの創成と応用プロジェクト拠点
三塩化ガドリニウムナノワイヤーを内包した2 層カーボンナノチューブの合成と物性解析
(掲載号:No.260号、pp.279-283)
本論文はDWCNT内にゲスト物質としてGdCl3を内包させ、その構造および物性をTEM、 Raman分光分析、光吸収、蛍光分光により評価したものである。DWCNTへの内包はゲストの1次元構造の機能性を損なわずに外層の化学修飾が可能である点から内包CNTの応用上重要であり、様々な原子や分子を内包させた研究が多数報告されているものの、合成量が極微量で、電子顕微鏡下での評価にとどまっている報告も多い。著者らは応用を見据えた観点からGdCl3内包DWCNTを合成し、TEMによる構造観察と分光学的評価の結果を合わせた議論を行っており、特に内包前後におけるDWCNTsの内層からの分光特性がほとんど変化していないことから、内包されたGdCl3と内層との間の電荷移動が小さく、これらの間の相互作用が弱いことを明らかにしたことは学術的価値が高い。また、DWCNTsの優れた光学特性を保持したまま、新たに内包物の機能性を付与することを実現したという点は、応用の観点からもさらなる発展が期待できるものである。以上、本論文は論文賞にふさわしいものと判断される。
炭素材料学会年会ポスター賞
炭素材料学会では、2004年(第31回)年会より年会ポスター賞を設けています。2014年(第41回)年会では学生諸君が発表したポスターを対象として、独創性・新規性、学術・技術的貢献度、発表者の理解度、ポスターとしての完成度(論理展開の妥当性・読みやすさ・表現の工夫度)などの項目について評価し、7件選考しました。ここに会員の皆様にお知らせいたします。
河野雅俊
大阪電気通信大学工学研究科修士課程先端理工学専攻 川口研究室
「窒素含有カーボンナノチューブの作製と触媒活性評価」
佐藤雅俊
福島大学大学院共生システム理工学研究科物質科学専攻 中村和正研究室
「ナタデココ由来CNF 強化炭素複合材料の摩擦摩耗特性」
田邉剛大
千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻 資源反応工学研究室
「含窒素多環芳香族化合物を塩基触媒とするKnoevenagel 縮合反応」
三留敬人
大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻 西山研究室
「高比表面積ミクロポーラスカーボンの一段階合成とその電気化学特性」
八木芳孝
千葉大学大学院融合科学研究科情報科学専攻画像マテリアルコース 高原研究室
「グラフェン及び単層カーボンナノチューブの光機能性分散剤」
吉川理沙
群馬大学大学院理工学府環境創生理工学教育プログラム 尾崎研究室
「鶏卵より調製したカーボンアロイ触媒の電気化学的な水素生成反応活性」
渡辺真里
筑波大学大学院数理物質科学研究科物性・分子工学専攻 木島研究室
「γ-シクロデキストリンマイクロキューブの固相炭素化条件の検討」