学術賞
「ナノグラファイトの電子状態・磁性の解明」
榎 敏明 東京工業大学大学院理工学研究科
榎敏明氏の業績は炭素科学の分野における独創的かつ重要な研究成果であり、この分野への貢献度は大きく特に優秀と判断された。理由として以下の項目が挙げられる。
1)炭素環の閉じた系であるフラーレンやナノチューブが世界的に注目される中で、候補者は端が電子構造に本質的な役割を果たすナノグラファイト(ナノグラフェン)に注目し、実験的に1枚のナノグラフェンを形成することに成功した。
2)ナノグラファイトは端の存在する開いた平面π電子系であり、端の幾何学構造に固有の極在した電子状態(エッジ状態)が存在し、それがナノサイズ系としての特殊な磁性示すことを実験的に明らかにした。
3)基板上の1枚のナノグラファイトについて電子波の干渉効果を初めて観測した。
4)エッジ状態においてスピンがスピングラス状態を形成することを発見した。
5)水分子の吸脱着によりナノグラファイトの常磁性がON/OFF的な可逆的スイッチング現象を起こすことを見いだした。
6)エッジ状態スピンをプローブとして、ミクロ孔を有する多孔性炭素におけるヘリウムの異常凝集現象を発見した。
これらの研究業績により、榎敏明氏は炭素材料学会学術賞の受賞に値するものと判断する。
研究奨励賞
「新規ナノカーボンの合成とその電気化学特性に関する研究」
白石壮志 群馬大学大学院工学研究科ナノ材料システム工学専攻
白石壮志氏は、フッ素樹脂の脱フッ化により得られるカルビン由来炭素の合成とその特性に関する研究を行い、「炭素」誌、ジャーナル”CARBON”、国際炭素会議あるいは炭素材料学会年会などにおいて多数の研究成果発表を行っている。多孔質炭素に関する研究は、従来から活性炭素を中心に活発に行われてきているが、同氏はフッ素樹脂の脱フッ素化という手法を炭素の多孔化に適用し、賦活法では得られないミクロ孔からナノオーダーの細孔を多量有する多孔質炭素の合成に成功した。近年、燃料電池車や電気自動車用として高性能電気二重層キャパシタが注目されているが、同氏はこのようなカルビン由来多孔質炭素やカーボンナノチューブなど、ナノサイズの新規ポーラスカーボン材料をキャパシターの電極材として用い、その細孔や表面の化学的性質とキャパシター特性との関係について、詳細かつ広範な研究活動を展開しており、これらの研究は次世代の高性能キャパシターの創出につながるものとして、関連企業や他学会も含め炭素材料学会内外から大きな期待が寄せられている。また同氏は炭素材料に関する電気化学分野の若手の第1人者として、「炭素」誌や実験技術手引き書でも複数の記事を発表するなど、日本の炭素材料科学の進展への貢献も顕著である。
これらの研究業績により炭素材料学会研究奨励賞の受賞に値するものと判断する。
炭素材料学会年会ポスター賞
八尾章史
信州大学大学院工学系研究科材料工学専攻東原研究室
「ゼオライトを鋳型とした窒素ドープミクロポーラスカーボンの電気二重層キャパシタ特性」
木村公一
広島大学大学院先端物質科学研究科量子物質科学専攻藤井研究室
「ミリング処理によるグラファイトの構造変化へ及ぼす処理雰囲気および鉄触媒効果」
村松康司
日本原子力研究所関西研究所 放射光科学研究センター
「機械研磨黒鉛とカーボンブラックの放射光軟X線発光・吸収分光」