学術賞【(旧)論文賞】
「活性炭のナノ構造と気体吸着特性」
金子克美 千葉大学
活性炭の細孔構造は把握しがたいものとして、その重要性にもかかわらず評価法の確立が極めて遅れていた。金子会員は独自に開発した分子プローブ法、X線回折法、X線小角散乱法、磁化率測定などを用いて、総合的かつ系統的な検討を行い、主として活性炭素繊維の原子的構造ならびに細孔構造を相当程度明らかにし、かつその優れた吸着特性との関係を示した。
それらの一連の研究のなかで、主としてミクロ細孔を持つ活性炭の比表面積概念を検討し、IUPACが物理的意味がないとしていた比表面積の意義とその決定法(Subtracting Pore Effect SPE法)を実験と分子シミュレーションとから示した。また、活性炭における表面積の理論的極限値2630m2g-1の問題点を示し、2630m2g-1以上の極高表面積炭素の存在の根拠を示した。
これらのミクロ細孔構造解析の一環として、7A以下のミクロ細孔であるウルトラミクロ細孔の評価法として、4.2KにおけるHe吸着法を開発し、その解析法を提案し、77Kにおける窒素吸着法では評価できない細孔の存在を示した。この4.2KにおけるHe吸着法はまだ解決すべき点は多いが次第に広がりつつある。
研究奨励賞
「炭素材料の黒鉛化と諸物性との相関関係」
岩下哲雄 大阪工業技術研究所
岩下会員は、種々の炭素材料のX線粉末回折パターンのフーリエ解析により、黒鉛化度P1を測定し、結晶構造パラメータ、電流磁気効果パラメータ、およびインターカレーション反応との相関関係を研究し、以下の業績をあげてきた。
平均面間隔d002と黒鉛化度P1、との関係は、異なった微細組織をとる炭素材料ごとに異なった相関を示すことを見出した。この原因として、黒鉛化度P1、は組織によって黒鉛化の進行が抑制された部分、すなわち結晶構造の歪部分と相互の関係が成立するのに対して、平均面間隔は黒鉛化度が進行した部分のみを反映しているために、多様な相関関係が現れることを明らかにした。具体的な例をあげれば黒鉛化度の進行が抑制されにくい面配列をとる炭素材料はP1-d002の関係が直線的であるのに対し、炭素繊維などの軸配向をとる炭素材料では、組織によって黒鉛化の進行が阻害されるため、P1値の増加がd002の減少に比べて遅く、P1-d002の関係は曲線となることを見出した。
また、硫酸のインターカレーション反応のホスト材料自身における基準(クライテリア)が黒鉛化度P1、および結晶子サイズLcによって定められること、リチウムイオンニ次電池の負極炭素材料の充・放電容量の見積に黒鉛化度P1、が有用であることも見出した。
更に炭素材料の電流磁気効果は、黒鉛化度P1、の値によって性質が異なり、P1が0.5以上では黒鉛的(2キャリアー)電導現象を、P1が0.5以下では乱層構造炭素的(1キャリアー)電導現象を示すことを明らかにした。この結果は黒鉛化度P1、が炭素材料の電子物性値とも関連していることを意味しており、今後の研究の展開が期待される。
これらの研究成果は、炭素材料科学の進歩に重要な知見を与えるだけでなく、リチウムイオン電池などの応用研究に対しての指針を示すものと考えられ、一層の研究進展が期待される。 よってこれらの業績に対し、同会員に研究奨励賞を授与するものである。