2021年度学会賞

 2021年度の炭素材料学会学術賞、技術賞、研究奨励賞、論文賞の各賞は、規定に基づき各選考委員会の厳正な審査により選出され、会長による評議員会への報告、評議員会の承認を経て、次のように決定されました。受賞者各位に対し、去る12月3日にオンライン開催の第48回通常総会にて表彰が行われました。会員の皆様にお知らせいたします。

研究奨励賞

「多孔質炭素モノリスの細孔構造制御と自立型電極を用いた電気化学特性評価」
長谷川丈二 氏(国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学 未来材料・システム研究所 特任准教授)

 長谷川丈二氏は,多孔質炭素モノリス材料に関する基礎及び応用研究に従事してきた。炭素モノリス前駆体となるポリマー多孔体の細孔構造制御により,ミクロ孔・メソ孔・マクロ孔の各サイズ領域の独立制御技術を発展させている。加えて,昇温によりガス発生する化合物と多孔質炭素材料を真空封入して加熱することで,細孔表面に種々のヘテロ原子を含む官能基を導入する手法を開発するなど,炭素材料の物理的・化学的特性に関する合成・制御技術の発展に貢献している。また,同氏はこれらの特性を制御して作製した炭素モノリス多孔体をバインダーフリーの自立型電極として用いることで,従来の合剤電極を用いる研究では困難である,多孔質炭素電極の細孔特性・表面化学的性質が電気二重層容量に与える影響について基礎的知見を得ることに成功している。さらに同氏は,自立型モノリス電極を用い,難黒鉛化性炭素電極の電気化学的ナトリウムイオン吸蔵挙動における炭素化温度依存性について系統的データを蓄積することにより,ナトリウムイオン二次電池用負極としての実用化に向けた難黒鉛化性炭素材料の設計指針を提示している。これらの成果は炭素材料学会年会を含む国内外の学会で発表されており,関連学術誌に多数公表されている。また,同氏は4度の海外留学の経験を有しており,精力的に国際共同研究を進めている。 以上のように,長谷川丈二氏は多孔質炭素材料に関する材料化学及び電気化学分野において業績を挙げており,今後炭素材料分野におけるさらなる活躍が期待できる。このことから,同氏の業績は炭素材料学会研究奨励賞に値するものと判断される。

研究奨励賞

「多孔質炭素材料の蓄電デバイスへの応用に関する研究」
加登裕也 氏(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 主任研究員) 

 加登裕也氏は多孔質炭素材料の蓄電デバイス用電極としての応用に関する研究を精力的に行い,特に電気化学キャパシタの高性能化に関して大きな成果を挙げてきた。同氏は,メソ孔に富む材料であるMgO 鋳型炭素を電気二重層キャパシタ用電極材料として用いた研究に取り組み,炭素の細孔構造と電極密度,キャパシタ特性の関連性を系統的にまとめている。その結果,少量のメソ孔が出力特性向上に大きな効果を発揮することを見いだし,大きな電極密度と,低抵抗・高出力を同時に実現するためには,ミクロ孔を主とし,全細孔のうち20%程度をメソ孔が占めるような多孔質炭素が有望であることを明らかにしている。さらにメソ孔に電解液の分解生成物を堆積させることで,抵抗上昇を抑制できることを明らかにしている。一方でMgO 鋳型炭素をナトリウムイオンキャパシタの負極材料にも応用することで,一般的なハードカーボンに比べて低抵抗化・高出力化することに成功している。さらに単層カーボンナノチューブの利用研究も行い,活性炭と組み合わせたバインダーフリー複合電極を作製することで,キャパシタの耐電圧・耐久性を向上できることを見いだしている。最近の研究では,天然黒鉛を機械粉砕して比表面積の大きな炭素を合成し,キャパシタ電極に応用した際にこれが現行の活性炭並みの体積比容量,そして活性炭よりも優れた出力特性を示すことを明らかにしている。これらの成果は炭素材料学会年会を含む国内外の学会で発表されており,また炭素誌をはじめとする学術誌に多数公表されている。 以上のように,加登裕也氏の多孔質炭素電極材料に関する研究成果は電気化学キャパシタの性能向上に大きく貢献するだけでなく,炭素材料分野全体の発展にも寄与するものである。このことから,同氏の業績は炭素材料学会研究奨励賞に値するものと判断される。

論文賞

「炭素繊維の熱膨張計測システムの開発」
岩下哲雄a),渡辺博道b),山田修史b)
a) 国立研究開発法人産業技術総合研究所計量標準総合センター分析計測標準研究部門
b) 国立研究開発法人産業技術総合研究所計量標準総合センター物質計測標準研究部門

 本論文は,炭素繊維の熱膨張係数(CTE) の温度依存性について自作の熱膨張計測システムにて詳細に調べ,既報データとの比較とともに同システムの信頼性を検証したものである。同システムはレーザーの回折および干渉を用いて,単繊維束または単繊維に安定な荷重を付加することで,繊維軸および軸直角(繊維径)の二方向の形状変化を計測可能とし,さらに繊維自体に直接通電して加熱することで室温から800 °Cまでの熱膨張変化をリアルタイムで測定できるように構築されている。また,繊維の温度変化は,二色放射温度計を用いた非接触測定を採用している。タイプの異なる市販のPAN系繊維とピッチ系繊維を試験したところ,繊維軸方向については,中弾性率タイプのPAN系繊維では室温付近から負の熱膨張を示し,概ね200 °C付近で正の熱膨張に転ずることが示された。一方,軸直角方向については,全ての炭素繊維で加熱とともにCTEは単調増加し,繊維径が太くなることが示された。また,同タイプのPAN系繊維間でも明らかに異なる結果が得られたことから,本システムが繊維断面組織の微細な違いを検出可能であることを示唆している。これら一連の試験データは,特に同じ種類の繊維において既往データと良く一致した。合わせて,実験データの妥当性を繊維試料の炭素六角網面の配向関数や結晶化度との相関性とを絡めて考察している。 本研究は技術報告ではあるが,論文中において著者らが「技術の伝承」を意識したとあるように,炭素繊維強化複合材料の設計において特に重要な熱応力因子について,その基本物性値となるCTEを計測するためのシステムの構成や測定方法,さらに解析の詳細がまとめられており優れた技術解説書にもなっている。以上のことから,本論文の成果は,学術・技術的貢献度が顕著であり,特に技術論文としての信頼性が高いものと認められたことから,炭素材料学会論文賞に十分値するものと判断される。

炭素材料学会年会学生優秀発表賞

 炭素材料学会では,2004 年(第31 回)年会より年会ポスター賞を設けています。また,2019 年(第46 回)より学生口頭発表賞も新たに設けました。2021 年(第48 回)年会ではオンライン開催のため,学生諸君が発表したオンデマンド発表を対象として,独創性・新規性,学術・技術的貢献度,発表者の理解度,オンデマンド発表としての完成度(論理展開の妥当性・読みやすさ・表現の工夫度)などの項目について評価し,学生優秀発表賞11 件を選考しました。ここに会員の皆様にお知らせいたします。

久野一心
千葉大学大学院 融合理工学府 先進理化学専攻 共生応用化学コース 資源反応工学研究室
「臭素化による炭素材料中の 5 員環・ベーサルアミンの制御」

黒松 将
青山学院大学大学院 理工学研究科 理工学専攻 先端素子材料工学研究室(黄研究室)
「光電子分光法を用いたSWCNT 膜に対するドーピング効果の評価」

高野広夢
群馬大学大学院 理工学府 環境創生理工学教育プログラム 尾崎純一研究室
「炭素網面π電子系が含酸素官能基の酸性度に及ぼす影響」

榎 翔也
兵庫県立大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 応用物理化学研究グループ
「グラフェンライクグラファイトのアニオン挿入脱離反応の速度論的評価」

千田晃生
東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 西原研究室
「異種の単核金属を含有した規則性ポーラスカーボンアロイの調製」

杉本俊太郎
群馬大学大学院 理工学府 物質・生命理工学教育プログラム 炭素材料電極化学研究室
「シームレス活性炭を用いたリチウム空気電池における電解液添加物効果の分析」

熊谷 瞳
北海道大学大学院 総合化学院 分子化学専攻 プロセス工学講座 材料化学工学研究室
「微粒子の炭素被覆を目的としたCVD における原料導入方法が炭素析出状態に与える影響」

佐藤駿介
名古屋工業大学大学院 工学研究科 博士前期課程 生命・応用化学系プログラム 川崎・石井研究室
「化学修飾したグラファイト状窒化炭素の光および電気化学特性」

本多映介
新潟大学大学院 自然科学研究科 材料生産システム専攻 山内研究室
「ポリマーグラフトCNT と導電性高分子を複合したソフトアクチュエータの作製と評価」

五味田綾香
横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 物質システム科学専攻 橘・鈴木研究室
「C70 ナノウィスカーの育成と力学的性質」

山部咲知
東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 西原研究室
「柔軟な多孔質炭素材料の圧縮による新規発電機構」