学術賞【(旧)論文賞】
「カーボンファイバー等の新規炭素体の構造解析と機能性の評価」
遠藤守信 信州大学工学部
遠藤守信氏は信州大学における気相成長炭素繊維の開発に初期の頃から関わり、高分解能透過電子顕微鏡による構造解析によるその生成機構の解明、それに基づく製造法の改良など優れた研究業績を挙げた。そのことは、諸外国において気相成長炭素繊維が一時期Endo fiberと呼ばれたことでも明らかである。また、この繊維の生成過程でカーボンナノチューブが生成していたと考えられ、同氏の研究が先駆的なものであったことが示されている。最近は、活性炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素体の構造解析、構造と電子的性状との関係の検討、さらにこれら繊維状炭素体へのインターカレーションやリチウムイオン電池負極としての応用、複合材料の調製など、繊維状炭素体の機能的応用の可能性を開拓する優れた論文を発表している。よって、遠藤守信氏は炭素材料学会論文賞を受賞するに値するものと判断した。
研究奨励賞
「黒鉛化度の低い炭素の構造解析とリチウム電池用負極材への応用」
藤本宏之 大阪ガス株式会社
藤本宏之氏は黒鉛化度の低い炭素材料を対象に、そのX線回折およびX線小角散乱法から得られる情報を基にコンピュータを用いた数字的廼理によって構造解析を行い、炭素六角網面の積層が乱れた構造についての定量的な議論を展開している。炭素材料中の空隙量を示す新しいパラメータとしてのキャビティインデックスの提案、低温処理炭素材科中へのインターカレーション量の結晶子サイズこよって隈られていることの数学的帰納法による説明.これらの解析結果に基づくリチウムイオン電池負極炭素材のリチウム保持機構の考察.さらに積層網平面間のねじり角の評価などを行っている。これらの数学的処理による解析は、従来解析が困難であるとして詳細な議論が行えなかった低温処理炭素材をはじめとする低黒鉛化度の炭素材料の構造解析に新しい光を与えるもので、今後の展開が期待される。 よって、藤本宏之氏は炭素材料学会研究奨励賞を受賞するに値するものと判断した。
技術賞
「新高性能炭素材の開発と大型化に関する研究」
黒田浩二、岡崎貞夫、坂下利雄、戸城昭 東洋炭素株式会社
田浩二氏を代表とする東洋炭素㈱のグループは、微粒コークス粉を原料とし、それをアイソスタティックプレス法によって成形することによって、等方性高密度炭素材を工業的に製造する方法を確立し、その大型化に成功した。炭素材料の製造にアイソスタティックプレス法を導入すると共に、焼成・黒鉛化過程での割れ、膨れを防ぎ、均一な寸法変化を実現するために、原料、温度分布、発生ガスの逸散など種々の因子を検討し、大型材の開発を達成させた。これら炭素材は半導体製造用冶具類、高温ガス冷却原子炉材料、核融合炉壁材料、さらにはロケット部品など工業材料として広く使われ、それらの産業界での大型化の要望にも応えることを可能にした。 よって、黒田浩二、岡崎貞夫、坂下利雄、戸城昭の4氏は炭素材料学会技術賞を受賞するに値するものと判断した。
「Plastic Formed Carbon製法の開発と製品化」
川窪隆昌 三菱鉛筆株式会社
川窪隆昌氏はシャープ替芯の製法を参考に、天然黒鉛と樹脂を原料として、それを射出成型法、押出成型法などによって成型したのち焼成する、後加工を必要としないいわゆるネットシェイプ技術を炭素材料にも実現した。この技術によって製造されたカーボンスプリングは、製法の斬新さのみならず、製品の精密さや美しさの点で、国際的にも注目された。この技術とその製品は、従来の炭素材料に関連する概念を一新させるものであり、学会はもとより産業界にも大きな衝撃を与えた。さらに、この技術によって製造された炭素材Plastic Formed Carbon PFCのスプリングのみならず、スピーカー振動板、分析用電極としての用途開発に積極的に取り組んできた。
これらPFCに関連する同氏の研究業績は、新規な製法の開発、製品の工業化のみでなく、炭素材料さらには炭素工業の在り方に大きなインパクトを与えたものである。惜しくも本年5月に急逝されたが、同氏のこれら優れた業績をたたえ、技術賞(特別)として表彰することが適当と判断した。