学術賞
「黒鉛層間における2種類の化学種の相互作用に関する研究」
塩山 洋 産業技術総合研究所主任研究員
塩山洋氏は、ほぼ20年にわたり、黒鉛層間化合物(GIC)、特に、黒鉛複層層間化合物(GBC)に関する研究を続けてきた。互いに化学反応を起こさない2種類の化学種を順にインターカレーションすればGBCが生成することは以前から知られていたが、氏は電気化学的方法、気相法、液相法などを利用して数多くの種類のGBCを合成し、インターカレート置換などの他のプロセスを起こすことなく複層化する条件を見極めた。さらに、黒鉛層間での無機および有機化学反応につい研究した。無機化学反応では、アルカリ金属を用いた金属塩化物の還元による金属微粒子生成反応を検討し、生成微粒子が中心部の厚いコイン状であることを明らかにした。また、黒鉛層間での還元反応の可否および生成微粒子径が金属の種類、出発GICのステージ数、反応温度によって説明できることを示し、金属微粒子・炭素系触媒の研究に発展させる可能性を示した。一方、有機化学反応については、あらかじめアルカリ金属がインターカレーションされている黒鉛層間での不飽和炭化水素のアニオン重合を解明した。この研究の過程で、1枚のグラフェン剥離とグラフェンの巻き上がった構造をもつナノチューブ生成法を見出した。これらの研究業績により、同氏は炭素材料学会学術賞の受賞に適するものと判断した。
研究奨励賞
「繊維状ナノカーボンを用いた水素貯蔵ならびに電力貯蔵に関する研究」
曽根田靖 産業技術総合研究所主任研究員
曽根田靖氏は、過去10年以上にわたり、炭素系材料、特にカーボンナノファイバーの合成と水素吸蔵現象に取り組んでいる。水素貯蔵に関しては、多くの炭素系水素貯蔵材料に対し、科学的な視点からの適切な評価を行ってきた。また、ナノファイバー、ナノチューブ、膨張化炭素繊維などのナノオーダーで構造を制御した繊維状ナノカーボンを電極材料とするキャパシターの研究を行い、特に、膨張化炭素繊維を電極とするキャパシタがきわめて高い充放電容量を有することを見出した。さらに、膨張化炭素繊維の充放電挙動においては、イオンのインターカレーション現象が重要な役割を果たしていることを示唆した。このことは、膨張化炭素繊維のキャパシタ電極としての実用性のみならず炭素材料のインターカレーション現象に関する基礎科学の観点からも重要な成果ということができる。
以上の研究業績から、同氏は炭素材料学会研究奨励賞の受賞に適するものと判断した。