曽根田 靖
炭素材料学会 会長
炭素材料学会は昭和24年に発足した「炭素材料研究会」に端を発し、70余年を数えて発展し続けています。これは、炭素材料が現代社会を支える黒子として欠くことの出来ない材料であるとともに、炭素という一つの元素を中心に多様なサイエンスの宝庫として輝き続け、研究者、技術者を魅了してやまないためです。
炭素材料は日常生活の中で直接触れることが多くは無いため、その色が黒いことにもかけて、よく黒子にたとえられます。最も生産量の多いカーボンブラックはタイヤのゴムを補強するために必須の材料でありますし、黒色のインクや塗料にも使用されています。次に生産量の多い黒鉛電極は、鉄スクラップを溶解/リサイクルするための電炉に使用され、高炉法製鉄よりCO2排出量を削減できることからその需要が高まっています。活性炭は家庭用浄水器や脱臭剤として身近な場面でも使われていますが、上水・下水処理、清酒や砂糖製造、工業設備での排水・排煙処理など、日常生活以外の場面で大量に使用されています。近年では航空機や自動車の車体に炭素繊維強化プラスチックが使用される割合が増えていることは、TVニュースなどでもしばしば取り上げられているのでご存じの方も多いでしょう。多種多様な炭素材料が半導体や自動車、蓄電デバイス、発電設備、原子力など、様々な分野で利用され、他の材料では置き換えることのできない基幹材料となっています。
サイエンスの立場から炭素を眺めると、他の元素にはない際立った特徴が見えてきます。多様な化学結合を形成できることに起因して、ダイヤモンド、グラファイト、カルビンの結晶が生じ、フラーレンとグラフェンの発見はノーベル賞に繋がりました。カーボンナノチューブはノーベル賞こそ授けられていないものの、紛うことなきナノテクノロジーの旗手として21世紀のサイエンスの発展に貢献してきました。たった一つの元素から生じる炭素材料のバラエティーを、私たちはカーボンファミリーと呼んで、そのサイエンスの深化を追求しています。
現在,気候変動問題の解決に向けた地球規模の取り組みとして“カーボンニュートラル”の実現に向けた技術開発と,社会・産業構造の変革が進められています。私たちが研究開発を進めている炭素材料(カーボン C)は,二酸化炭素(カーボンダイオキサイド CO2)削減に大きく貢献し、カーボンニュートラル社会の中でますますその重要性が高まることには疑いがありません。 世界各国のCarbon Societyと比してもトップクラスの位置にある我が国の炭素材料学会に、炭素材料に興味を持つ研究者・技術者の方々や、新たに炭素材料研究に足を踏み入れた学生の皆さんが奮って入会されることを願っております。また、既に加入されている会員ならびに関係者の皆様におかれましては、引き続き学会の発展に向けて、ご協力の程、お願い申し上げます。