学会賞表彰

2018年度

 2018年度の炭素材料学会学術賞,技術賞,研究奨励賞,論文賞の各賞は,規定に基づき各選考委員会の厳正な審査により選出され,会長による評議員会への報告,評議員会の承認を経て,次のように決定されました。受賞者各位に対し,去る12月6日名古屋工業大学において開催の第45回通常総会の席上にて表彰が行われました。会員の皆様にお知らせいたします。

【学術賞】
「人造グラファイト材料の高温物性計測技術開発とそれを用いた解析」
岩下哲雄 氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所 上級主任研究員)

 岩下哲雄氏は,炭素材料の高温での物性計測装置をベースにして,主に人造グラファイト材料の高温での機械特性や熱伝導性を計測してきた2000°Cを超える高温まで,直流四端子法による高温電気抵抗や非接触法による熱膨張を計測できる装置を開発し,これらの計測装置から得られる計測試験結果をグラファイト材料の構造・組織によって分析・評価して,数多くの成果を上げてきた。
 人造グラファイト材料の主要な応用分野は,鉄鋼,金属アルミニウムに代表される精錬および半導体用シリコン結晶,人造サファイヤやシリコンカーバイドなど無機材料の製造などであり,その人造グラファイト材料は,電極や発熱体から断熱素材まで高温下で使用される。ゆえに,グラファイト材料の高温物性の計測とその結果の分析は,これらの応用に対して非常に有用で,上述の半導体等の製造等には不可欠である。また,人造グラファイト材料を製造するときにも3000°Cという超高温が必要とされ,その熱処理の間に黒鉛化という独特な物理変化が起こる。このことからも開発した高温物性計測装置は,高温熱処理に伴う物性変化をその場で観察・測定できることから,これまでに知られていない特性の変化があることを見いだしてきた。これらの報告結果は,関連産業界で非常に有効であることが評価されている。
 以上のように,岩下哲雄氏は,炭素材料の高温物性の開発および評価の観点から独創的な発想で研究を進め大きな成果を上げており,その業績は炭素材料科学の進展に大きく寄与していることから,同氏の業績は炭素材料学会学術賞に値すると判断される。

「炭素材料の多孔質化・添加金属による機能付与に関する研究」
丸山 純 氏(地方独立行政法人大阪産業技術研究所 研究主任)

 丸山純氏は,主に燃料電池,電気二重層キャパシタ,レドックスフロー電池などの電気化学的エネルギー変換・貯蔵デバイスの電極に使用される炭素材料開発において,独自の視点に基づいた出発原料の選定と,その特徴を引き出す熱処理法により,効果的な多孔質化と金属添加を達成して,低コスト,かつ高性能な電極につながる新規炭素材料を創出し,その基礎的知見,応用技術の蓄積から炭素材料科学の進展に貢献してきた。
 固体高分子型燃料電池正極の非貴金属化を目指した,カタラーゼ,ヘモグロビンといった鉄タンパク質を原料に選定した炭素触媒合成は,世界初の動物バイオマス由来の酸素還元触媒合成として認識されている。その 後,コバルトと窒素を添加した炭素材料が固体高分子型水電解セル陰極触媒として機能することを発表し,他の水素発生触媒としての炭素材料研究の先駆けとなった。また,レドックスフロー電池の電極反応の電位と炭素材料中の添加金属の酸化還元電位をマッチングさせると,電極反応機構が外圏反応から内圏反応へと変化し,反応が促進されることを見出すなど,先駆的な研究を多数発表している。
 このように,丸山純氏の炭素材料の多孔質化・添加金属による機能付与に関する研究は独創的で高く評価でき,その業績は炭素材料科学の進展に大きく寄与していることから,同氏の業績は炭素材料学会学術賞に値すると判断される。

【研究奨励賞】
「有機・高分子化学をベースとした炭素ナノ細孔の化学的修飾とエネルギー貯蔵能の向上」
糸井弘行 氏(愛知工業大学 准教授)

 糸井弘行氏は,有機合成化学や高分子化学の深い知識と経験を炭素材料分野に活かし,活性炭をはじめとする多孔質炭素のナノ空間を利用したエネルギー貯蔵・変換材料の研究開発に大きく貢献してきた。この研究により,多孔質炭素の細孔内部のみに有機化合物や有機金属錯体を吸着させて高分散担持し,細孔内で起こる反応を利用して金属クラスターや金属単原子,そして導電性高分子を細孔内部のみに生成させる技術を見い出すことができた。最近の研究では,有機白金錯体を利用した多孔質炭素細孔内への白金クラスターや白金単原子の導入法を見い出し,電極触媒やスピルオーバーを利用した水素貯蔵材料への応用が大きく期待できる成果を挙げている。さらに,多孔質炭素細孔内に酸化還元反応を行う有機化合物や導電性高分子を導入したところ, これらの化合物と導電性の高い炭素表面との電荷移動が速やかに起こることを見い出し,細孔内部で形成する電気二重層に基づく二重層容量よりも,細孔内部のみで起こる酸化還元反応由来の擬似容量が優れた急速充放電特性を示すことを明らかにした。その結果,これらの材料が電気化学キャパシタ電極として優れた充放電特性を有することを,様々な有機化合物や導電性高分子を用いて実証してきた。これらの合成手法の多くは有機溶媒の使用が不要であり,煩雑な合成反応や特殊な実験設備も使用しないため,炭素を用いた複合材料分野に今後大きなインパクトを与えることが期待される。
 糸井弘行氏の複合材料における研究は,同氏の有機合成化学や高分子化学などの多様なバックグラウンドによって切り拓かれたものであり,今後更に独自の研究分野を発展させることで,将来的に炭素材料分野への大きな貢献が期待できることから,同氏の業績は炭素材料学会研究奨励賞に値するものと判断される。

「炭素繊維,炭素繊維強化プラスチック及び炭素系ナノコンポジットの汎用化・実用化に関する研究」
入澤寿平 氏(名古屋大学大学院工学研究科 助教)

 入澤寿平氏は,新規前駆体からの炭素繊維の調製及びその評価の研究に従事し,これまでフィルム状の炭素シートしか調製できていなかった新規ポリマーから高性能炭素繊維を製造する条件を見いだすことに挑戦し,前駆体繊維の紡糸条件並びに高分子構造制御法を確立するとともに,得られた新規炭素繊維の結晶・非晶構造やその配向構造を評価し,その機械特性を向上させることに成功している。また同氏は,熱可塑性樹脂を用いたCFRPの研究開発において,汎用化・実用化を強く意識し,軽量で高い耐衝撃性を有した炭素繊維強化プラスチックの開発,CFRPのリサイクル方法,さらには取り出した炭素繊維の特性評価と最適活用手法の構築,ナノ炭素フィラーの創製と複合化による新機能材料の創出などの研究を果敢に進め成果を上げている
 入澤寿平氏の新規な炭素繊維並びに炭素繊維複合材料に関する研究開発は,将来的に炭素材料分野への大きな貢献が期待できることから,同氏の業績は炭素材料学会研究奨励賞に値するものと判断される。

【論文賞】
「Formation mechanism of zeolite-templated carbons」
(280号,pp.169-174に掲載)
Hirotomo Nishiharaa), Katsuaki Imaia), Hiroyuki Itoib), Keita Nomuraa), Kazuyuki Takaic), Takashi Kyotania)
(a) Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials, Tohoku University, Japan, b) Department of Applied Chemistry, Aichi Institute of Technology, Japan,
c) Department of Chemical Science and Technology, Faculty of Bioscience and Applied Chemistry, Hosei University, Japan)

 本論文は,これまでに著者らが発展させてきたCVD法によるゼオライト鋳型炭素の生成メカニズムについて詳細に論じたものである。CVD法によるゼオライトナノチャネルへの炭素の取り込み過程の観察を行い,また熱処理に伴うナノグラフェンからの連続した3次元構造形成過程について考察した。ダングリングボンドについても詳細な解析がなされ,炭素の3次元構造形成時には,ゼオライトによって空気から保護されているものの,ゼオライト鋳型除去時に水や酸素と反応して,酸素または水素によって終端化されることを明らかにした。また,鋳型除去前に水素処理を施すことによって,鋳型除去後の含酸素官能基を減少できることも報告している。これは,ゼオライト鋳型炭素の生成メカニズムの解明によって導かれた官能基制御法であると考えられる。以上のように,すでに基礎・応用面について精力的に研究されてきた材料を用いた論文ではあるが,生成機構の解明や構造解析データなど新しい知見を含む内容であり,将来の多孔質材料開発に向けて学術貢献度が非常に高い。また,ゼオライト鋳型炭素に馴染みのない読者にも理解しやすいようにまとめられており,論文としての完成度も高いと認められたことから,炭素材料学会論文賞に十分値するものと判断される。

「Electrochemical properties of nitrogen-doped carbons prepared by the thermal reduction of furfurylamine-intercalated graphite oxide」
(281号,pp.2-7に掲載)
Yoshiaki Matsuoa), Shunya Maruyamaa), Qian Chengb), Yasuharu Okamotob), Noriyuki Tamurab)
(a) Department of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, University of Hyogo, Japan, b) IoT Devices Laboratories,NEC Corporation, Japan)

 本論文は,酸化黒鉛にフルフリルアミンをインターカレートした層間化合物を原料とし,これを熱分解して窒素ドープ炭素を合成し,そのキャラクタリゼーションとリチウムイオン電池負極特性の評価を行ったものである。炭素材料の窒素ドープには原料に含窒素化合物を混合する方法が主流であるが,本論文の手法は層間化合物を原料にするという新しいものである。得られた窒素ドープ炭素は熱分解温度によらず同程度の窒素を含有し,熱分解温度の増大に伴い酸素含有量が減少した。また,層間距離は熱分解酸化黒鉛と比べて狭く,窒素含有の影響が見られた。リチウムイオン電池の負極特性としては500°Cの熱分解温度で極大容量が得られ,黒鉛に近いものであった。さらに放電容量の増大には窒素および酸素の含有が効果的であるが,酸素の寄与がより大きいことを示した。また,酸素含有量が少ない窒素ドープ炭素では吸蔵されたリチウムイオンが完全に放出されるという結果を得たことで,リチウムイオンと窒素の相互作用が弱いことを明確に示し,理論計算からその安定性を評価した。リチウムイオン電池の炭素負極はさらなる性能向上が要求されており,本論文の成果は性能向上に資する方針を与えるものであり,独創性および新規性に優れ,学術的貢献度も高いと認められたことから,炭素材料学会論文賞に十分値するものと判断される。

「炭素材料学会年会ポスター賞」

 炭素材料学会では,2004年(第31回)年会より年会ポスター賞を設けています。2018年(第45回)年会では学生諸君が発表したポスターを対象として,独創性・新規性,学術・技術的貢献度,発表者の理解度,ポスターとしての完成度(論理展開の妥当性・読みやすさ・表現の工夫度)などの項目について評価し,7件選考しました。ここに会員の皆様にお知らせいたします。

島ノ江明生
九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専攻 炭素材料科学研究室
「ハイパーコール由来のメソフェーズピッチ系炭素繊維の調製および物性評価」

加藤友郁
千葉大学工学部共生応用化学科 資源反応工学研究室
「PMDA-ODA型ポリイミドの炭素化機構の解明」

舟守勇斗
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科物質システム科学専攻 橘研究室
「C60ナノウィスカーの育成と力学的性質」

川合悠介
関西学院大学理工学部化学科 清原研究室
「キャパシタ脱塩法における2 価のイオンの炭素電極への電気化学的吸着 メカニズムの解明」

小蝟セ日香
長崎大学大学院工学研究科総合工学専攻 応用物理化学研究室
「多孔グラファイト電極材料の特性評価」

横山幸司
東北大学大学院環境科学研究科先進社会環境学専攻 佐藤義倫研究室
「脱フッ素化を経由した単層カーボンナノチューブへの窒素・ 構造欠陥導入による電子物性の制御と酸素還元触媒活性の発現」

松本 遥
東洋大学大学院理工学研究科応用化学専攻 ダイヤモンド(蒲生西谷美香)研究室
「有機液体中での接触反応による炭素系薄膜の合成と評価」